ゆるキャラ愛、日本的感覚…青木貞茂・法政大教授が新著



「小さな神様」DNAが追求

 ゆるキャラブームが過熱するなど、日本では老若男女を問わずキャラクターが大人気だ。

 この背景にあるものは何か。『キャラクター・パワー』(NHK出版新書)を著した法政大教授(広告論)の青木貞茂氏=写真=は日本文化の深層が関係していると指摘し、「キャラクターを幼稚と切り捨てずに、きちんと考察すべきだ」と訴える。

 地域おこしに励むキャラクターたちの祭典「ゆるキャラグランプリ」は、2010年はエントリー数が169体、投票数は約24万だった。それが昨年には1580体、約1743万にまで激増。もはや国民的な人気だが、その割に背景があまり分析されていないという。「知識人には、真剣に論じる現象ではないという偏見があるのではないか」

 青木氏は本書で、人気の背景を詳しく論じる。まず、多神教の日本で、人間以外にも魂が宿るとするアニミズムが浸透していることを指摘。また、言葉よりシンボルによってコミュニケーションする社会であったことを挙げる。例えば神道には教典がなく、仏教が入っても経典より仏像や曼荼羅(まんだら)などのシンボルがありがたがられた。「神との契約のような、明文で定義されたものに従うという考え方も根付かず、曖昧で両義的なものを許容してきた」。家紋や、ピクトグラム(絵によるトイレや食堂などの表示)の発明、商品の良さを言語化して伝えるよりもタレントイメージに頼るテレビCMなども、その表れという。

 氏はまた、ゆがみやアンバランス、未成熟さを示すものが愛されてきたとも指摘。たしかに西洋のキャラクターの写実性と比べると、日本の特異性は明らかだ。さらに、子どもを未熟なものとせず、大人と子どもとの境界線があいまいなのも、日本人独特の感覚だと強調する。

 これらの文化的背景から、江戸時代にはキャラクターを娯楽として楽しむ、日本的コミュニケーションが完成した。それが、現代のキャラクターの原型ともいえる「妖怪」の消費だ。本来はアニミズム的な神の一種で怖いはずなのにどこかかわいらしくキャラクター化され、絵や本で大人も子どもも一緒に楽しんだ。特に、道具に顔や手足がついている「九十九(つくも)神」は、ゆるキャラとの関連性が非常に強いという。


【「ゆるキャラグランプリ2013」で人気を集めた、グランプリのさのまる(中央)2位出世大名家康くん(左)と3位のぐんまちゃん(埼玉県羽生市で、2013年11月)】

 青木氏は、キャラクターを容認する日本人の文化的なDNAは、明治以降の西洋化・近代化を経ても、根強く残ったと強調する。「コンピューターのOS(基本ソフト)にあたる部分に、文化的な特徴がかなり深くインストールされている」。結果、ゆるキャラだけでなく妖怪や虫、仏像などをモチーフにした極めて日本的なキャラクターが今、社会に定着している。

 氏は一方で、ブームが映し出す社会の変化にも言及する。例えば、ビジネスなどあらゆる場面でグローバル化の圧力が強まり、領土問題などの外交摩擦が顕在化した今は、「日本人がかなりきついストレスにさらされている」時期。だからよけいに癒やしが求められているという。

 また、各自治体がこぞってゆるキャラを作る背景には、地方の経済的疲弊があるという。「即効性のある手だてを求めているから、精神的な絆をすぐに創り出せる、日本人にとって一番なじみのある“小さな神様”に頼る」と氏は説明する。さらに、「子どもの論理」と抑圧されてきたキャラクターへの愛着が社会からためらいなく受けとめられる裏には、個人に近代的市民主体であることを期待してきた“戦後民主主義”の弱体化があるという。

 ならば今、我々は、キャラクターとどう向き合えばいいのか。氏は、まずはキャラクターを愛した上で、ソフトパワーを輸出振興の手段だけでなく、国家のブランド化に生かすべきだと説く。「いいかげんで曖昧かもしれないが、子どもと大人が共通に楽しめ、癒やしや楽しみを提供できる。キャラクターを愛するそうした文化スタイルを発信し、平和と調整の国家イメージを高めていってもいい」

2014年5月14日(YOMIURI ONLINE)